研究概要 |
人の血清に存在するマンノース結合蛋白(MBP)は補体活性化に関わる分子で、個体発生学的には若い時期に高く、年齢と共に減少することから、人の幼少期に重要な生体防御関連分子と考えられる。事実、この分子の欠損は幼少期に反復性感染を示す。このMBPの補体活性化はMBPに結合するMBP-associated serine protease (MASP)が関わる。本研究はMASP(蛋白分解酵素)による補体活性化の制御機構の存在、ならびにMASPの生体に於ける存在様式について解析した。 [結果] 1)人血清に存在するMBP中には,MBP、MASP、およびα2macroglobulinの3分子が複合体を形成しているものがあることを、見出した。 2)この複合体の結合順序はMBP-MASP-α2macroblobulinの順で、MBP-MASP間の結合にはCaイオンを介するもので可逆的であるが、MASP-α2macroglobulin間の結合は非可逆的なものであった。 3)MASPはesterolytic活性で補体を活性化する分子であるが、α2macroblobulin-MASP複合体はその活性が抑制されていた。 4)MASPの血液中の存在様式を詳しく検討すると、MBPやα2macroblobulinとも結合しない形態でも存在し、また各分子の血液中での分子数は明らかに異なっていた。分子数的にはMASPが最も多いものであった。 5)MASPの個体発生上の量的変化はMBPと同様に、幼少期に高く年齢と共に減少した。 [考察] α2macroblobulinは多数の蛋白分解酵素のinhibitorとして作用し、系統発生的にも古い分子に属する。MBP-MASPを介する補体系は古く、その制御も古い酵素inhibitorであるα2macroblobulinで行われていることは、理にかなっている。人は最も発達した抗体系、補体系を持つにも関わらず、古いMBP補体系をも合わせもつのは、それなりの理由がある。事実、MBPやMASPの個体発生をみると、幼少期が多く、年齢と共に減少する。このことは、抗体を介する新しい補体系が成熟するまでの間、古いMBPが働くものと考えられる。
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