研究者は200名以上のDuchenne型あるいはBecker型筋ジストロフィー(DMD/BMD)患者を対象としてジストロフィン遺伝子の異常を分子遺伝学的に解析してきた。しかしながら、DMD/BMD患者の約3割が合併する知能障害、あるいは多くのDMD/BMD患者が死亡する原因となっている心不全、これらのいずれの重篤な症状についてもその発生機序は未解明のままである。 ジストロフィンには脳あるいは心臓に特異的に発現する未知の分子種が存在し、こうした特定の分子種の異常により知能障害あるいは心障害が発生するとの説が提唱され注目されている。研究者らは、心臓のジストロフィンが特有なスプライシングを受け、特異な分子種を作り出していることに着眼し、メッセンジャーRNAを逆転写酵素、PCR法を用いて解析したところ心臓に特異的なジストロフィンの分子種の1部塩基配列を明らかにすることに成功した。これは、ジストロフィンの心臓障害の発生に関連いた新しい分子種が心臓に存在することを示唆する結果である。 そこで、研究者らは、すでにその存在の手掛かりを得たジストロフィンの新しい分子種の1部の塩基配列をプローグしてノーザンブロット解析を行ったところ、この新しい分子種が心筋、骨格筋に強く発現していることが判明した。現在、一部判明した塩基配列を出発点としてこのジストロフィンの新しい分子種の全塩基配列を5'RACE法あるいは3'RACE法を駆使して決定する実験を行っている。その成果をもとに、今後この新しいジストロフィンの分子種の発現臓器の特定あるいはプロモーター活性の解析等を行いその生理学的意義を解明する予定である。
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