ジステロフィン遺伝子は8種類に及ぶ組織特異的あるいは発生時期特異的に活性化されるプロモーターを有している。また、この遺伝子は79もの多くのエクソンを有するが、この中のいくつかのエクソンが選択的スプライシングを受けるため、mRNAの構造をみるとエクソンの構成を異にした多くのジストロフィンの分子種が存在する。このプロモーターの多様性と選択的スプライシングの存在とが相互に絡み合って、極めて多数のジストロフィン分子種を産生する要因となっている。 ジストロフィン異常症においては骨格筋のみならず、心筋にも障害が発生することがよく知られ心筋でもジストロフィンが機能していると考えられている。最近、骨格筋が障害されず心筋のみが特異的に障害された例でジストロフィン遺伝子に異常が発見され、ジストロフィンに心筋特異的な分子種が存在することが強く示唆されている。 本研究は心筋の機能と強く連鎖した心筋特異的なジストロフィンの新しい分子種をクローニングするものである。研究者がBecker型筋ジストロフィー患者でそのジストロフィン遺伝子の異常をmRNAで解析していたところ、エクソンの70の配列が直接75の配列につながっていることを発見した。このエクソンの70が75とつなかった領域をプローブとして用い心筋mRNAを材料としてノーザン解析をしたところ、心筋にのみ特異的に認められるバンドを検出した。これは、先の仮説の様に心筋特異的なジストロフィンの分子種の存在を示すものである。そこでこの新しい分子種をクローニングするため心筋からmRNAを抽出し、cDNAライブラリーを作成した。そして、現在このバンドの全長の塩基配列を解析している途上であり、近々全塩基配列が解明できるものと期待される。
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