ジストロフィンに関する研究が進むにつれ、その分子種の多様性が指摘されている。研究者らは多くのジストロフィン異常疾患者でそのジストロフィンmRNAを解析し、ジストロフィンの分子種の多様性について解析してきた。そして、ジストロフィンの新しいプロモーター領域のクローニングに成功するなどのジストロフィンの分子種の多様性に関する数々の成果を挙げてきた。200例以上のジストロフィン異常疾患者の遺伝子解析を行なった中で、ジストロフィンの特異なスプライシングパターンを有している症例を発見した。この症例ではジストロフィンのエクソン70の配列が直接エクソン75の配列へと連続しており、エクソンの71から74におよび配列が消失していた。しかしながら、ゲノムDNAではエクソンの71から75までは存在していた。このことは、本症例ではエクソンの71から75がスプライシング時にスキップされたことを示した。一方、この様なエクソンスキップパターンを呈するジストロフィン分子種を明らかにするためこのエクソン71と75が連続する部分をブローブとして、ヒト各組織から得られたmRNAを対象としてノーザンブロット解析した。その結果、このプローブにより検出されるジストロフィンの分子種のシグナルは心筋のみで認められ、この分子種が心筋に特異的に発現していることが判明した。そこで、この新しい分子種についての全長のクローニングを行なうため、心筋cDNAライブリーを作成し、これを出発点としてこの分子種のクローニングを行なっている。 本研究成果は今後ジストロフィン異常症における心筋障害発症メカニズムの解明を大きく促進するのみならず、広く心不全の病態解明を大きく促進するものと強く期待される。
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