研究概要 |
近年,遺伝子工学的技術の発展により遺伝子治療に関する研究が盛んに行われ,これまで治療が不可能であった先天代謝異常症患者への臨床応用が開始されている。先天代謝異常症では,中枢神経障害が不可逆的になる前にできるだけ早期に治療を開始することが重要である。現在,先天代謝異常症の遺伝子治療は,骨髄細胞や骨髄造血幹細胞を標的細胞として検討されているが,骨髄細胞や骨髄造血幹細胞を症状発現前あるいは障害が不可逆的になる前の乳幼児期に採取するには危険が伴い,また頻回に採取することは困難である。そこで,乳幼児からも安全に,繰り返して採取できる末梢血造血幹細胞および新生児から採取可能な臍帯血造血幹細胞を用いた遺伝子治療法を確立するために,まず,健康成人を対象として安全で有効な至適G-CSF投与量を決定し,効率的な造血幹細胞の採取方法を確立した。また,大量の末梢血および臍帯血単核球分画から純度の高い造血幹細胞の効率良い純化方法も確立した。ついで末梢血および臍帯血造血幹細胞にレトロウィルスペクターを用いてマーカー遺伝子を導入し,その導入効率および長期発現率を検討した。末梢血および臍帯血造血幹細胞とも高い遺伝子導入効率・長期発現率を示し,診断後できるだけ早期に治療を開始すべき先天代謝異常症の遺伝子治療の標的細胞として有用であると考えられた。また,出生前診断された患児においては臍帯血造血幹細胞を標的細胞とした遺伝子治療をまず行い,その後必要であれば安全に反復して採取可能な末梢血造血幹細胞を標的細胞とした遺伝子治療を行うことにより,症状の発現を予防することも可能であると考えられる。今後は,臨床応用を目的として,in vivoでのマーカー遺伝子の長期発現率の検討発現持続期間の検討を行うとともに本遺伝子治療の対象となる疾患の動物モデルでの欠損酵素の導入効率,発現期間の検討を行うことが必要である。
|