研究概要 |
本研究では、発育期の脳にとって重要なカテコラミンニューロン系が生後早期に損傷された場合にみられる可塑性を機序について、セロトニンニューロン系に焦点を当てて、その動態を追求した。 生後3日・1週・2週・4週のラットおよびマウスの左側線条体一側脳室に6-OHDAを投与し、成熱ラットおよびマウスでは左側黒質一線条体路に6-OHDAを脳定位固定装置を用いて注入して、ド-バミンニューロン系破壊動物を作製した。アンフェタミンテストにより,6-OHDAによるドーパミンニューロン系破壊の程度を評価し、一定の左側への回転運動を示す動物を選別し、12か月後まで経時的にに潅流固定、凍結切片を作製し、抗チロシン水酸化酸素抗体,抗セロトニン抗体、抗GFAP抗体、抗S-100β抗体、抗NOS抗体を用いて免疫組織化学を行った。免疫組織化学に供した隣接切片に対しNADPH-diaphoraseの酵素組織化学を行い、線条体を中心にNADPH-diphorase、即ちNOS陽性細胞およびセロトニン線維の分布密度を定量的に測定した。これらの実験により以下の新知見が得られた。 1.セロトニンニューロン系のheterotypic sproutingの臨界期は、生後2週までである。 2.成熟動物ではセロトニンニューロン系のheterotypic sproutingは認めない。 3.新生仔期に見られるheterotypic sproutingは少なくとも12か月まで持続する。 4.線条体のNADPH-diphorase陽性細胞および線維の分布については変化を認めない。 本研究により、セロトニンニューロン系のheterotypic sproutingの臨界期、その持続期、新生仔脳と成熟脳との可塑性の違いに関する興味ある所見が得られた。これらは、モノアミンニューロン系の発育期の脳における機能的意義や発育期と成長後における中枢神経系損傷後の機能的回復能の差の機序を解明する上で重要な所見である。
|