我々はヒト21番染色体に存在するダウン症の原因遺伝子のクローニングを目指している。まず、21q22.1-q22.3のダウン症候群領域(DSCR: D21S17-D21S55-ETS2)から得たコスミドDNAを用いてエキソントラッピングを行ない163種類のエキソンを単離した。ホモロジー検索の結果、ほとんどは新規遺伝子であったが、非常に興味深いことに6個のエキソンはショウジョウバエの中枢神経系の発生に重要な機能を果たす転写調節因子の遺伝子single-minded (sim)と高いホモロジーを示したのでヒトSIM遺伝子と名付けた。またショウジョウバエの脳の形態形成に関与するセリン/スレオニンキナーゼの遺伝子minibrain (mnb)、マウスのG蛋白質結合型K^+チャンネルの遺伝子GIPK2 (weaver変異の原因遺伝子であることが最近報告された)と相同性の高いエキソンも同定された。マウス胎仔からクローニングしたSIMcDNAのコードする蛋白質にはbHLHおよびPASドメインがあり、転写調節因子として機能することが示唆された。またSIMのmRNAは受精後8〜9.5日目のマウス胎仔において間脳にのみ特異的に認められた。これらの結果からマウスのSIM遺伝子も中枢神経系の発生に深く関わっていることが推察された。さらにヒトの中枢神経系の発生過程における役割が期待され、ダウン症における臨床症状(精神遅滞)の原因を解明するための重要な糸口として注目される。その他の遺伝子についてもcDNAのクローニング、発現パターンの解析を進めている。またDSCRをカバーする4Mbにおよぶコスミド/PACコンティグとそれから作成したEcoRI制限酵素地図へのcDNAおよびエキソンのマッピングを行なっており、遺伝子地図を作成中である。
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