我々はダウン症の原因となる遺伝子を同定するために21q22.1-q22.2のダウン症関連領域(DSCR)のコスミドからエキソントラッピング法によって155種類のエキソンを単離した。これらの中には既知のヒト遺伝子(ERG、HCS、CAF-1)のエキソンやヒト以外の生物の遺伝子(ショウジョウバエのsingle-minded(sim)、minibrain(mnb)、マウスのGirk2遺伝子)と相同性の高いエキソン、機能未知のヒトcDNAと相同性の高いエキソンなどが含まれていた。これらの内sim遺伝子はショウジョウバエの中枢神経系の正中線細胞の発生の調節に重要な機能を果たす転写調節因子を、mnb遺伝子は神経芽細胞前駆体の増殖調節に関与するセリン/スレオニンキナーゼをコードすることが報告されていた。またマウスGirk2遺伝子はG蛋白質結合型内向きKチャンネルをコードするが、weaver変異の原因遺伝子であることから小脳の細胞の分化の調節に重要な機能を果たすことが知られている。従ってこれらの遺伝子のヒト型相同遺伝子(SIM2、MNB、GIRK2)がDSCRから発見されたことはダウン症の精神遅滞との関連で極めて興味深い。これらのヒト型相同遺伝子(SIM2、MNB)の機能を解明するためにcDNAのクローニングを行い、蛋白質の構造を決定し、遺伝子発現部位を解析した。さらに最近発見されたTPRD遺伝子、内向きKチャンネル(Kir1.3)の遺伝子のエキソンなどを含む95個のエキソンを4Mbのコスミド/PACコンティグから作成したDSCRのEcoRI制限酵素地図上に位置付けたところ、まだ遺伝子の見つかっていない領域にも多数のエキソンがマップされ、複数の未知遺伝子の存在が示唆された。
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