肝癌症例には肝硬変による様々な程度の肝機能障害が基盤にあるので、肝の放射線耐容(肝不全発症)の究明に際し仮説を設けた:放射線耐容は肝予備能に相関し、肝予備能は非照射肝体積並びにその代償肥大の程度に比例する。この仮説は、外科的肝切除後の残存肝体積と切除前肝予備能を変数とした、切除の安全基準回帰式に拠っている。陽子線治療例は、エックス線治療例に比べ、照射肝体積が限られるので、外科的肝切除に近似した解析が可能である。陽子線により肝局所照射がなされ、かつ追跡CT画像を備えた肝硬変合併肝癌症例26症例を対象とした。照射肝体積はDose volume histogram解析により求め、非照射肝体積及びその代償肥大は、全肝体積から追跡CT画像で認識できた照射肝体積を差し引いて求めた。その結果、非照射肝体積は、照射部肝体積の萎縮に呼応して肥大することが示させ、硬変肝の放射線耐容は、仮説通り、非照射肝の予備能に相関することが示唆された。しかし、対象症例は切除の安全基準をみたしており、肝不全は発症せず、耐容の限界は確認できなかった(Int J Radiat Oncol Biol Physに受理)。 また、陽子線治療後の肝癌腫瘍の縮小経過について解析した(Radiother Oncol掲載)。放射線治療後の効果判定基準には、腫瘍の縮小程度が用いられてきた。この基準によれば、縮小が軽度なほど治療効果が少ないと判定される。長期観察例18例の腫瘍は、長期間制御されているにもかかわらず、腫瘍縮小は極めて緩徐であった。実質臓器腫瘍では、治療により不活化された腫瘍構成物(壊死、線維など)は、専ら腫瘍内部あるいはその周囲組織から吸収除去されるため、腫瘍縮小にはその吸収除去能力が大きく関与するであろう。この吸収除去能力には、腫瘍や臓器組織などの違いによる相違もあろうことから、新たに、他の実質臓器腫瘍を対象にした解析を開始した。
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