精神分裂病と感情障害の発症と経過に関与する神経伝達物質関連遺伝子変異の検索

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07457207
• 研究種目: 一般研究(B)
• 研究機関: 東京医科歯科大学
• 研究代表者: 融 道男 東京医科歯科大学, 医学部, 教授 (20013972)
• 研究分担者: 有波 忠雄 筑波大学, 基礎医学系, 助教授 (10212648) ; 渡辺 明子 東京医科歯科大学, 医学部, 技官 (40210992) ; 車地 曉生 東京医科歯科大学, 医学部, 助手 (00251504) ; 澁谷 治男 東京医科歯科大学, 医学部, 助教授 (10158959)
• キーワード: 精神分裂病 / ドーパミンD2受容体 / ドーパミンD2受容体遺伝子 / アミノ酸ミスセンス変異

研究概要

われわれが見出したドーパミンD2受容体遺伝子(DRD2)の311番目のコドンのミスセンス変異S311Cについて、256名の精神分裂病を対象として研究した。うち入院患者は192、外来患者は64名であった。このほかに128名の患者も遺伝子型は決定しているが、症状の分析が未了なので遺伝子型の頻度についてだけ触れる。S311Cは対照410名のうち、3.4%に、分裂病384名中7.0%に見出された。特に陰性症状のない分裂病82名ではS311C保有率は17.1%であり、S311C変異を有しているものが多いことが特徴的であった。
DRD2のcDNAでS311Cの変異型をCHO細胞に発現させ、薬理学的特徴について野生型と比較した。0.65nM ^3H-spiperoneに対する受容体阻害実験において、haloperidol,bromperidol,sulpiride,clozapine,dopamine(DA)の親和性は変異型、野生型の間で顕著な差はなかった。また各種濃度のDAを添加して24時間培養したが、short form(D2S),long form(D2L)のそれぞれにおいて、両型にdown regulationはみられなかった。各種濃度のDAを添加して30分培養すると、D2S,D2Lにおいてinternalization(IT)が認められた。10^<-5>MのDA刺激によってD2Lでは約20%、D2Sでは約45%のITが認められ、D2S>D2Lであった。これらDA刺激によるITは(-)sulpirideの添加で阻害され、培地からDAを除去するとITした受容体が膜表面に戻ることも分かった。D2Sを用いて比較したところ、10^<-5>MのDA刺激によりS311C型では35%、野生型では45%のITが起こり、S311C型の方が有意にITの割合が小さかった。この結果は、この変異をもつ分裂病が抗精神病薬に反応しやすく、予後がよいものであることを示唆しているように思われる。

研究成果

• [文献書誌] Yamada,S.,Watanabe,A.,Nankai,M.and Toru,M.: "Acute immobilization stress reduces (±)DOI-induced 5-HT_<2A>receptor-mediated head shakes in rats." Psychopharmacology. 119. 9-14 (1995)
• [文献書誌] Semba,J.,Kito,S.and Toru,M.: "Characterization of extracellar amino acids in striatum of freely moving rats by vivo microdialysis." J.Neural Transm.100. 39-52 (1995)
• [文献書誌] Semba,J.,Watanabe,A.,Kito,S.and Toru,M.: "Behavioral and neurochemocal effects of OPC-14597,a novel antipsychotic drug on dopaminergic mechanisms in rat brain" Neuropharmacology. 34. 785-791 (1995)
• [文献書誌] Arinami,T.,Itokawa,M.,Aoki,J.,Shibuya,H.,Okubo,Y.,Iwawaki,A.,Ota,K.,Shimizu,H.,Hamaguchi,H.and Toru,M.: "Further association study on dopamine D2 receptor variant S311C in schizophrenia and affective disorders." Am.J.Med.Genet.(in press).
• [文献書誌] Itokawa,M.,Toru,M.,Ito,K.,Tsuga,H.,Kameyama,K.,Haga,T.,Arinami,T.and Hamaguchi,H.: "Sequenstration of the D2S and D2L dopamine receptor isoforms expressed in Chinese Hamster Ovary cells." Mol.Pharmacol.(in press).
• [文献書誌] Kaneko,K.,Watanabe,A.,Kumashiro,S.,Semba,J.and Toru,M.: "The effects of single and repeated phencyclidine administration on [^<125>I]iomazenil binding in the rat brain" Neurochem.Int. (in press).
• [文献書誌] Kurumaji,A.,Watanabe,A.,Kumashiro,S.,Semba,J.and Toru,M.: "A postmortem study of glycine and its potential precursors in chronic schizophrenics" Neurochem.Int.(in press).
• [文献書誌] 石丸昌彦、融道男: "内因性精神病の病態生化学(I)精神分裂病-ドーパミン仮説とグルタミン酸仮説" 臨床脳波. 37. 191-197 (1995)
• [文献書誌] 吉川武男、融道男: "内因性精神病の病態生化学(II)遺伝学的アプローチについて" 臨床脳波. 37. 264-270 (1995)
• [文献書誌] 融道男: "講座 精神分裂病の生物学的研究-1.分裂病治療薬(抗精神病薬)の進歩" 作業療法ジャーナル1995. 29. (29-33)
• [文献書誌] 車地暁生,融 道男: "講座 精神分裂病生物が学的研究-2.精神分裂病の病因の生化学的研究" 作業療法ジャーナル1995. 29. (111-115)
• [文献書誌] 兼子幸一,融 道男: "講座 精神分裂病の生物学的研究-3.「精神分裂病の遺伝をめぐって」" 作業療法ジャーナル1995. 29. (197-203)
• [文献書誌] 大久保善朗,融道男: "講座 精神分裂病の生物学的研究-4.画像解析による解明" 作業療法ジャーナル1995.
• [文献書誌] 融道男: "ドーパミンD2レセプターと精神分裂病" Molecular Medicine. 32. 168-173 (1995)
• [文献書誌] 融道男: "精神分裂病の生物学的研究-グルタミン酸とドーパミンの異常を中心に-" 児童精神医学とその近接領域. 36. 152-157 (1995)
• [文献書誌] 融道男(監修): "臨床ハンドブック神経伝達物質受容体" 最新医学社, 1995