研究概要 |
前年に引き続いて、長崎市にて生活している原子爆弾被ばく者(原爆被爆者手帳の保有者)を対象に所定の方式に則って、面接調査がなされた。採用した評価尺度は、全般健康調査票12項目および30項目版版(GHQ-12、GHQ-30)、統合国際診断面接法(CIDI)、社会的機能障害尺度(SDS)などであり、本研究に入るまで、これらの尺度利用に関する演習を繰り返した。一次調査としてGHQ-12項目版でスクリーニングを行い、それの総合得点別に二次調査対象を抽出した。一次調査・二次調査それぞれに詳細な説明をし、研究への協力の同意を得た。CIDIおよび臨床面接の結果は、ICD-10診断が付された。平成8年度は同年4月から8月までに、長崎原爆被爆者健康管理センターでの検診を受けた者で、更に長崎在住の被ばく二世にも協力を依頼した。ただ、予備的調査のニュアンスが強い。 結果的に、調査期間を通じて重複した症例を除くと、男性3,216人、女性4,454人、併せて7,670人被ばく者が協力し、1,592人の被ばく二世が協力した。先の単年度の結果において示唆された結果が、より高い統計学的有意差を以て確認されることとなった。つまり被ばく距離別にGHQ-12得点を見たとき、近距離被ばく者(〜2km)が他の被ばく距離群の者より高得点で、また高得点者も多いことが確認された。彼らの中には、気分障害(うつ病)や神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害などと診断される事例の少なくないことも見られた。被ばく二世は予想に反して、高齢者である被ばく者よりGHQ-12の高得点者が多かった。こうした結果の背景について、被ばくによる家族や知己の死、あるいはその他の心理社会的負荷の関与が考えられ、現在そうした側面の評価に関する質問票を準備中である。被ばく者のかなりな人たちに心理的悪影響が発現していることが確認されたので、今後は、その背景を探ると共に、具体的支援の方法を検討していく計画である。
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