研究概要 |
AD脳に特徴的なアミロイドβ蛋白(Aβ)が、どのような細胞内機構によりいかなる分解処理をうけてアミロイド前駆体蛋白(APP)から生じ沈着するのかという問題はADの原因解明には不可欠の課題である。最近我々は、リソソームの蛋白分解酵素阻害作用をもつクロロキン投与ラットに見られる特有の筋病変はADによく似ていることを見出した。クロロキン培養筋細胞系はAPPの細胞内処理過程とAβ形成の関係を調べるのに恰好のin vitroの実験系と考えられることから、本年度は以下の点を検討した。 1)各種培養細胞系、HUT78(T細胞系)、U937(モノサイト系)、Hs93(正常横紋筋細胞)、Hs94(横紋筋細胞腫)におけるAPPの分解過程と細胞腫特異性の検討:我々の樹立したAPP各ドメインに対する多数のmcAbを用いて細胞画分にあるAPPの性状を調べた。細胞の種類が異なっていると各分画のAPP断片の性質が異なっていることが確認された。これまでAβを含む50,20kDaのAPPの断片を検出して検討してきたが、トリス・トリシン ゲルとRIを用いることにより10kDa以下の6kDa,4kDa,3kDaのAβ断片の検出ができるようになった。さらに、imaging plateを用いて定量的な検討を行っている。 2)蛋白分解酵素阻害剤、ロイペプチン、リソソーム酵素阻害剤、クロロキンの各種培養細胞、HUT78、U937、Hs93、Hs94におけるAPPの分解過程への影響の検討:ロイペプチン、クロロキンを用いることによって、Aβを含む50,20kDaのAPPの断片がリソソーム分画に見出されることを確認した。薬剤の種類が異なると10kDa以下のAβ断片の増加ないし減少してAPPの分解の様相が異なっていることが明らかにされた。Hs93、Hs94などの筋細胞におけるAPP断片の性質につき現在検討中である。 これらの検討からAPPからAβを生成する過程にはリソソーム経路が関与していること、APPの処理過程も細胞の種類によって異なっていることが示唆された。さらに来年度はこの実験系を用いて分子生物学的手法によってAβの形成過程を明らかにしたい。
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