我々は、動脈硬化巣では中膜由来平滑筋細胞が形質転換し、増殖能、マトリックス産生能などの亢進したいわば病的細胞になっているという考え方を、世界に先駆けて提唱している。そして、この平滑筋の形質転換という現象のメカニズムを解析し、その制御法を開発することは、動脈硬化症の新しい治療方法を開発する上で重要である。 平成7年度の研究により、培養血管平滑筋細胞をコラーゲンゲル内で3次元的に培養することにより、合成型から収縮型へと形質転換させることが可能であることが明らかとなった。この変化をもたらす因子としては、細胞外マトリックスの成分ではなく、主として平滑筋細胞同士の3次元的接触状態が重要な働きをしていることも明らかとなった。 一方、ウサギ頸動脈バル-ニングによって作製した実験的動脈硬化病変を、継時的に組織を免疫染色して観察すると、はじめは血小板由来増殖因子(PDGF)のアイソフォームのうちBBの発現が優位で、受容体もβ優位であるが、時間とともにAAおよびα受容体の発現が優位となることが判明した。このことは、動脈硬化の進展過程においては、PDGF-BBを介するβ受容体の活性化が細胞の増殖・遊走ならびにマトリックス産生を促進しているが、その後、動脈硬化巣の成熟化ないし退縮過程においては、今度はPDGF-AAを介するα受容体の働きが優位となり、細胞遊走の抑制などの作用を発揮しているものと考えられる。 当初期待していた通り、平成7年度の研究は順調に進み、血管平滑筋細胞の形質転換の可逆性を示唆する成績を得ることができた。今後は、この知見を如何に動脈硬化の治療に役立てていけるかが新たな課題となる。
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