研究概要 |
近年、腎疾患に対する有効な治療法を確立するために、分子レベルでの病態の解明が望まれている。ヒト糸球体メサンギウム細胞(HMC)は、腎糸球体の生理に重要な細胞であり、慢性糸球体腎炎等の増殖性糸球体腎炎の発症において重要な病態生理学的意義を有する細胞である。これまでHMCのcell biologyを明らかにすべく多くの研究が行われてきたが、HMCについては不明な点も多く、未だ有効なマーカータンパクさえ同定されていない。そこで私達は、1)HMCに発現している遺伝子を解析し、HMCを構成する遺伝子群の特徴(種類及び発現量)を明らかにすること、2)HNC特異的遺伝子をクローニングし、その構造と機能について解析すること、3)得られたHMC特異的遺伝子に対する抗体を作製すること、を目的として研究を開始した。 1:HMC cDNAライブラリーの作製及び解析 正常ヒト腎組織より、シービング法にて糸球体を分離し、培養メサンギウム細胞を確立し、mRNAを抽出・分離した。このmRNAを鋳型として、HMCに発現する遺伝子解析用のcDNAライブラリーとしてpUC19改変ベクターを用いたoligo dT primed 3′-directed cDNAライブラリーを作製した。また、HNC特異的遺伝子のクローニング用のcDNAライブラリーとしてファージベクター及びプラスミドベクターを用いてfull length cDAライブラリーも併せて作製した。Oligo dT primed 3′-directed cDNAライブラリーより2000クローンを任意に抽出し、蛍光プライマー及び全自動シークエンス装置を用いてその塩基配列を決定した。 2:HMC特異的遺伝子の同定 今回、HMCで得られた解析結果を既存の遺伝子データーバンク(NCBI,EMBL等)とホモロジー比較し、更に、腎臓以外の種々の細胞・組織(肝臓、肺、脳下垂体、線維芽細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞 etc)の遺伝子群の情報(細胞生体工学センター、大久保助教授より提供)と比較・検討する事により、HMCに特異的であり、且つ、未知の遺伝子クローンを11個選別することに成功した。
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