本研究では、過剰発現したTGF-Bを遺伝子操作により是正することにより、糸球体障害の進展を抑制しうる可能性について検討した。抗Thy-1抗体腎炎モデルラットを用い、1.アンチセンス(AS-ODN)を腎糸球体に導入し、TGF-β遺伝子発現自体を抑制する方法と、2.TGF-βの中和活性を持つデコリン蛋白を発現させ、発現増加しているTGF-βの作用を抑制する方法について検討した。前者については、HVJ-liposome法によりAS-ODNはほとんど全ての糸球体のメサンジウム細胞の核に主に取り込まれていることが確認された。腎炎惹起後2日目にTGF-βに対するAS-ODNを腎糸球体に導入したところ、AS-ODN導入群では、Disease controlであるセンスオリゴあるいはスクラブオリゴ導入群に比し、TGF-β mRNAが抑制され、細胞外基質の集積も有意に抑制されていた。後者の方法としてはデコリン遺伝子を筋肉に導入し、デコリンを筋肉で過剰発現させ血流を介して糸球体に作用させることを試みた。我々はデコリン遺伝子を組み込んだプラスミドをHVJ-リポソーム法により筋肉へ遺伝子導入を行った。筋肉は毛細血管網に富んだ臓器であり、筋肉で発現したデコリンは血流を介して、腎に到達し、糸球体にトラップさせることが確認された。抗Thy-1抗体腎炎のラットにデコリン遺伝子を導入することにより、腎糸球体でTGF-β mRNAレベルを抑制するとともに、糸球体硬化病変の進展も阻止し得た。以上の方法により糸球体でのTGF-βの発言を低下させることあるいはTGF-β作用を抑制することが可能となり、この結果糸球体病変の進展および細胞外マトリックス産生は抑制された。以上から、アンチセンスオリゴあるいはデコリン遺伝子導入による遺伝子治療の可能性が示唆された。
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