研究概要 |
急性腎不全は、適切な予防措置や早期の的確な対処により、腎機能が改善するが、およそ50%は末期腎不全に移行したり、合併症により死の転帰を迎える臨床上重要な疾患である。急性腎不全が発症した際にどのような変化が生じているかを知ることはその予防、治療の上で重要である。今回、臨床上頻度の多い虚血性急性腎不全モデルと、腎移植などに用いられ腎障害発症が問題になっているシクロスポリンによる急性腎不全モデルにおいて、エンドセリン-1mRNA、エンドセリン変換酵素、エンドセリン-1産生、エンドセリンA型受容体、エンドセリンB型受容体、等について、また虚血性急性腎不全モデルにおいては腎障害からの回復過程における細胞内情報伝達系について検討した。 両モデルにおいてエンドセリン-1mRNAは30分より数時間後から発現の増加が認められ、エンドセリン-1産生が増す。このため血管収縮がおこり腎障害をきたすと考えられる。このままこのシグナルが持続すると腎障害は果てしなく進行するが、それぞれのモデルにおいて異なった調節がなされている。受容体のうちA型受容体は両モデルにおいて減少するが、B型受容体は虚血性急性腎不全モデルでは増加し、シクロスポリンによる急性腎不全モデルにおいては減少する。また、エンドセリン変換酵素はシクロスポリンによる急性腎不全モデルにおいて減少していた。これらのことより、虚血性急性腎不全ではA型受容体の減少によりエンドセリンの作用減少に寄与するとともにB型受容体が増加することにより腎障害の回復に寄与していると思われる。シクロスポリンによる急性腎不全モデルにおいてはB型受容体は寄与しておらず、エンドセリン変換酵素を減少することにより、エンドセリンを低下させ腎障害の回復に寄与していると思われる。虚血性急性腎不全モデルにおける腎障害からの回復過程の細胞内情報伝達系は、エンドセリン-1によりraf-1キナーゼ,MAPキナーゼキナーゼ,MAPキナーゼ,S6キナーゼなどのリン酸化が認められ回復過程における関与が推察された。
|