研究課題
基盤研究(B)
胎児から小児脳の組織バンクは10施設以上の協力をえて、着実に増加し、1000例を越した。これらを利用して、脳の正常発達と発達障害を系統的に検討した。正常脳では、遺伝性疾患の遺伝子蛋白の抗体を作成し、その局在と機能を発達的に検討した。Miller-Dieker症候群や結節性硬化症の遺伝子蛋白であるLIS-1やtuberinは胎児期早期から脳の神経細胞やグリアに出現し、脳の形成や分化に関与していることが分かった。染色体21番に遺伝子があるプリン合成控訴(GART,GARS)やd-serineを生化学的、組織化学的に発達を観察し、異常発達研究の基礎とした。また、ヒト脳の神経細胞にあるN-acetyl-L-aspartic acidをNMRで測定し、正常脳における年齢的変化と局在を明確にした。グルタミン酸受容体、グルタミン酸トランスポーターの局在と機能を検討し、神経細胞とグリアの発達的および機能的相互関係の緊密さを認めた。proteolipidなどを用いて、髄鞘形成の過程で、蛋白と脂質の微妙な発達相違を認めた。これらのことは発達障害や機能障害の発生機序の解明へ応用できる。異常例では、神経細胞移動異常、ダウン症候群のシナプス発達遅滞と早発老化、結節生硬化症などの神経皮膚症候群、胎児・新生児脳循環障害、乳幼児突然死症候群の発生機序が検討された。滑脳症の原因となるLIS-1、結節生硬化症のtuberin は疾患脳には、発現の減少があり、免疫組織化学的な診断に用いられることが分かった。ダウン症候群では、小児機にアミロイド前体蛋白や転写因子Etz遺伝子などの過剰発現があり、早発老化の発生との関連が示唆され、治療の可能性が提唱された。新生児では、特異な神経細胞死が海馬支脚と橋核に限局して生じ、アポトーシスに類似した特徴を持っていた。脳室周囲白軟化(PVL)は超低出生体重児でも生じ、軸索障害が意外に多く、グリア活性化されて、PVL形成に関与していた。乳幼児突然死症候群は新生児期から発生し、死亡前に虚血をきたす機序があることが証明されると共に、カテコラミン作動性神経の減少が示唆された。
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