研究概要 |
肝阻血障害の迅速かつ無侵襲な診断法として、生体組織に透過性の高い近赤外分光測定による肝酸素代謝の無侵襲監視システムの実用化を目的とし以下の研究を行った。臨床肝切除例において、近赤外生体分光測定し、蓄積したデータに基づいてヒト肝の近赤外スペクトルにおける最適な拡散補正係数の決定および解析成分の選択を行った。さらに臨床生体肝移植例において、グラフト肝の近赤外分光測定することで術中のグラフト肝酸素代謝(肝組織のヘモグロピン量およびその酸素化)を監視し、肝阻血障害診断としての有用性を検討した。 阻血・再灌流障害に対する肝細胞保護の新しい展開として、ストレス蛋白の誘導によって肝細胞が阻血障害に対する抵抗性を獲得する可能性に注目し検討を進めた。長期間絶食状態にしたラットからの肝臓は、グリコーゲンの枯渇、ATPの産生低下にかかわらず、阻血障害に対する抵抗性を獲得し肝移植後の生存率が改善した。また長期間絶食ラットの肝臓は移植後のグラフト肝組織内の酸素代謝(ヘモグロピンの酸素化およびチトクロムオキシターゼの酸化還元状態)を改善することを明らかとした。絶食による阻血障害抵抗性の機序を解明する目的で、ストレス蛋白であるHeat shock protein (GRP78, HSP70) mRNAの肝臓内発現を解析したところ、絶食によりGPR78, HSP70geneの発現増強を認め、その程度は肝移植後の生存率とよく相関した。この結果により、細胞保護効果を有するストレス蛋白を肝細胞に誘導することで阻血障害に対する抵抗性を導入しうる可能性が期待された。
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