研究概要 |
癌に対する遺伝子治療として、各種の細胞にサイトカインや接着分子などの遺伝子を導入し、これを担癌生体に投与することによって治療を行う免疫遺伝子治療の試みが行われてきている。私共このような治療を癌床応用すべくその基礎的検討として、ヒト細胞特に癌培養株化細胞に、Tリンパ球の分化誘導に重要な役割を果たすサイトカイン(IL-2,IL-6)遺伝子の導入を行い、一方免疫原性を高めるために接着分子(CD80,CD86)、腫瘍拒絶抗原(MAGE)遺伝子をも導入して各々についての免疫遺伝子治療の可能性について基礎的検討を試みた。IL-2遺伝子についてはレトロウイルスベクターに組み換え、胃癌及び大腸癌株化細胞に導入して、IL-2をstableに産生するクローンを得た。これら細胞のcharacterizationを行ったが、非導入細胞と特に差異を認めなかった。しかし同種及び自家リンパ球との混合培養を行ったところ、特に自家リンパ球との培養により特異的な細胞障害性T細胞(CTL)を誘導し得た。IL-6遺伝子についてはアデノウイルスベクターに組み換え、ヒトリンパ球を移入したSCIDマウス(SCID-PBL/hu)に同種あるいは自家腫瘍細胞を投与した系にこれを投与し、in vivoにおけるIL-6遺伝子導入の効果を検討した。その結果、特異的CTLが誘導され、さらに抗腫瘍効果が認められ生存期間の延長、転移の抑制が認められた。CD80及びCD86についてはレトロウイルスベクターに組み換えを行い導入を試みたが十分な成績が得られなかった。MAGE遺伝子についてはMAGE-3陰性胃癌株化細胞に導入したか、蛋白レベルで発現するクローンを得、この細胞はMAGE 3特異的CTLにより障害された。このように各遺伝子の導入により、これら細胞を用いた免疫遺伝子治療の臨床応用への可能性が示唆された。今後さらにこれらを複合した免疫治療の可能性をも検討したい。
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