腫瘍血管の生物学的特性をより明確にし、その特性を生かした治療法の開発へと展開することを目的とし研究を行った。 1.間質浸潤や血管新生に関与しているといわれているEts-1(E26 transformation-specific-1)を指標としてdiffusion chamber assay法を用い、ヒト肝細胞癌培養細胞株(PLC/PRF/5;Alexander)の血管新生能を検討した。 2.外科的切除を行った大腸癌原発巣、肝転移巣および原発性肝細胞癌の血管内皮細胞に対する増殖活性、それに関わる増殖因子の検索を行った。 【結果】 1.ヒト肝癌細胞株(Alexander)は、diffusion chamber assayにおいて血管新生を促進した。また、新生血管の内皮細胞にはEts-1の発現が認められた。すなわち、肝細胞癌は強い新生血管誘導能を有し、その血管新生にはEts-1が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 2.大腸癌原発巣、肝転移巣および原発性肝細胞癌は強い血管新生能を有しており、血管新生因子を産生していると考えられた。この血管増殖因子として、大腸癌原発巣ではvascular endothelial growth factor(VEGF)、肝転移巣ではbasic fibroblast growth factor(bFGF)の関与が示唆された。また、TNF-αによる腫瘍血管新生の抑制効果は軽度であった。 今後は、さらに血管新生についての研究を進め、発癌・進展・転移などの機構を解明することにより新しい癌治療の戦略の確立に寄与したいと考えている。
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