研究概要 |
正常大腸粘膜,過形成,腺種,腺種内癌および進行癌を対象に,cyclin D/CDK4とCDK4 inhibitor(p16)の発現を免疫組織化学およびWestern blottingにて検討した。 まず正常粘膜においてcyclin Dの発現は腺管基底部の細胞にもっとも多く,腺管上部に向かうにしたがって減弱し,検出範囲は腺管下部1/3であった。一方,CDK4およびp16の発現は腺管基底部に限局したごく少数の細胞にのみ強く検出された。過形成粘膜において,cyclin Dは腺管基底部から上部にいたる多数の細胞に検出されたが,CDK4とp16の発現様式は正常粘膜と同様であった。腺種においては,cyclin Dは66例中55例(83%)と高率に過剰発現していたが,CDK4の過剰発現は全く認められず,またp16の過剰発現も52例中5例(10%)と低率であった。cyclin Dの発現と腺種の異型度との相関は認めなかった。腺種中に微小な癌が存在する腺種内癌症例の癌部分において,cyclin Dは8例中8例(100%)と高率に過剰発現していた。CDK4の過剰発現は全く認めなかったが,腺種と異なる点はp16の過剰発現で,14例中10例(71%)に認められた。進行大腸癌においては,cyclin D,CDK4,p16はそれぞれ45例中26例(58%),45例中39例(87%),60例中59例(98%)に過剰発現を認めた。Western blottingによる定量的な解析から,正常粘膜に比し癌組織において,cyclin D1は18例中15例(83%)で平均4.61倍,cyclin D2は18例中9例(50%)で平均3.30倍,CDK4は13例中11例(85%)で平均1.65倍,p16は13例中13例(100%)で平均8.03倍の過剰発現が確認された。また,連続切片を用いた免疫染色の比較から,CDK4を強発現する癌細胞は同時にp16も強発現していることが明らかとなった。 以上から,大腸のadenoma-carcinoma sequenceの各段階において,G1 cyclin/CDK,CDK inhibitorなどの細胞周期制御因子の過剰発現が関与していることが示唆された。
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