原発性肝細胞癌の発癌のメカニズムとしてHCV抗体陽性肝細胞癌では癌遺伝子や癌抑制遺伝子などの一連の遺伝子の変化により肝細胞癌へ進展するという多段階発癌説が提唱されている。この多段階発癌説の機序のひとつとして染色体の不安定性(Genetic Instability)の可能性があげられている。一方HBsAg陽性肝細胞癌ではB型肝炎ウイルスX遺伝子の発現が肝細胞癌の発現に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。そこでHCVおよびHBV感染のAFP産生に及ぼす影響について比較検討した。 結果:HBsAg陽性率は1980年は50%であったが、1991年には9.3%と年々減少し、HBsAg陰性肝細胞癌とくにHCV抗体陽性肝細胞癌が相対的に増加している。一方AFPも比較的低値の症例が最近増加している。AFP値が200以下の症例は1980年には38%であったが、その後年々増加し1992年には83%となった。AFP値が200以下の症例の占める割合はHCV抗体陽性例では48例中41例(86%)でHBsAg陽性例の69例中27例(39%)より有意に多かった(p<0.01)。一方AFP値が1000以上の症例の占める割合はHBsAg陽性例では69例中25例(36%)でHCV抗体陽性例の48例中5例(10%)より有意に多かった(p<0.01)。 まとめ:HCV抗体陽性例はHBsAg陽性例よりAFP値は有意に低値を示したが、再発時にはHBsAg陽性例と同様に高値を示す症例が多かった。これはB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスの発癌メカニズムの違いがAFP産生に影響を及ぼしているものと思われた。
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