研究概要 |
スキルス胃癌は急速広範に増殖浸潤する特性を有しており、高率に腹膜播種性転移をきたし、予後は非常に不良である。これまでの研究により、この増殖進展過程に胃壁線維芽細胞の産生する分子量2.6-25KDaの増殖促進因子が関与していることが示された。さらにこの因子の同定をすすめた結果を示す。 NF-8の培養上清中の増殖促進因子はヘパリン親和性を示さなかった。 既知の細胞増殖因子による検討では、OCUM-2Mの増殖能はRGF, TGF-α, b-FGFおよびVEGFにより促進された。NF-8よるOCUM-2Mの増殖促進作用は、EGF, TGF-α, b-FGFおよびVEGFに対する中和抗体では抑制されなかった。以上よりNF-8より分泌される増殖促進因子はヘパリン親和性を持たない、これら以外の因子と考えられた。 スキルス胃癌は高率に腹膜播種性転移をきたすことより、当科で樹立したスキルス胃癌細胞株を用いて腹膜播種性転移の機序につき検討した。スキルス胃癌細胞株OCUM-2Mより高腹膜播種性転移株OCUM-2MD3を樹立し、親株との性状の違いを検討した。この高腹膜播種性転移株は腹膜中皮細胞および基底膜への接着性が亢進していた。接着分子としてはCD44およびβ1インテグリンの発現が亢進し、E-カドヘリンの発現が減弱していた。以上の結果より、胃癌の腹膜播種性転移には癌細胞表面のCD44と腹膜中皮細胞のヒアルロン酸との接着および、β1インテグリンと中皮下基底膜との接着が関与していることが示された。また、抗CD44抗体により腹膜播種性転移の抑制が認められ、接着抑制を用いた腹膜播種性転移の新しい治療法の可能性が示された。
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