胆嚢摘出術施行512例、およびERCP施行2336例を対象に、新潟地方の膵管胆道合流異常症の頻度を、また胆嚢摘出例について胆嚢胆汁の胆汁脂質を検討し、以下の結果を得た。 1. 膵管胆道合流異常症(合流異常)の頻度 胆嚢摘出術施行例の胆嚢胆汁中アミラーゼ活性値10.000IU/L以上の高値例は2.3%、ERCP施行例中の合流異常の頻度は2.7%で、共に他地域からの報告と一致した。新潟地方の胆嚢癌多発の背景として合流異常が積極的役割を果たしている証拠は得られなかった。 2. 胆道疾患患者の胆嚢胆汁脂質分析から (1) 胆汁酸分析の結果、胆嚢癌最多発地域ボリビアからの報告と同様胆嚢癌とコレステロール胆石における脂質濃度の低下を確認した。また胆嚢癌では発癌促進因子とされる二次胆汁酸比の上昇が認められた。胆汁酸濃度の低下は胆嚢造影上胆嚢機能が保たれ、かつ粘膜破壊のほとんどない胆嚢癌症例にも見られ、発癌以前に胆汁濃縮力の低下が起きている可能性が示唆された。 (2) 脂肪酸も胆嚢癌症例では脂質濃度全体の低下を反映して著しく低値で、Ames test抑制因子とされるオレイン酸、リノール酸の濃度も低値であった。しかし、胆嚢癌非多発地域(和歌山)の症例の脂肪酸濃度も新潟地方に比して低値を示し、検体処理に関連する人為的誤差が考えられた。 3. 胆汁の変異原性について 未だ少数の検討であるが、Ames test陽性率の低下傾向が伺われた。今後実験条件を吟味の上、経年的に変化を観察する必要がある。 4. 今後の課題 合流異常の頻度をより確実に把握する一方、環境を含む他の疫学的要因に関する研究を一層推進すべきである。また、コレステロール胆石例における胆嚢の濃縮力低下の機序や胆汁中脂肪酸の役割を明らかにして、胆嚢癌高危険群解明に貢献したい。
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