研究概要 |
平成7年度までの研究結果より,未熟心において低温下multidose投与法が障害的に働く理由として成熟心に比較し心筋虚血再灌流障害がつよいことが考えられ,その機序としてNa-H exchangeが重要な役割をしていることが示唆され,さらにその予防法の一つとしてNa/H exchange blockerが有効であることが考えられた.平成8年度の研究では心筋保護液中の緩衝剤の種類や濃度を変化させることによりNa/H exchange活性をmanupilationし,再灌流障害に於けるNa/H exchangeの関与を検討した. 1.緩衝剤として細胞膜を通過しないHEPESを用い心筋保護液中のHEPES濃度をあげる(緩衝能をあげる)と心機能回復は不良であった.これはmultidose cardioplegiaにおいては注入中にNa-H exchangeが活性化されその結果Ca overloadを助長したものと推察される. 2.現在,成人で臨床使用されているSt. Thomas液とBretshneider液の未熟心における効果を比較した.St. Thomas液は緩衝剤として重炭酸イオンを用いた細胞外液型,Bretshneider液はhistidineを用いた細胞内液型の心筋保護液であり,両緩衝剤とも細胞内に移行しbuffer substanceとして作用するがBretshneider液のほうが高い緩衝能を有する.新生児家兎摘出心を用い両液の低温下でのsingle-doseとmultidoseの効果を比較した結果,虚血後の心機能の回復(心拍出量等)はsingle-dose, multidose両法ともSt. Thomas液を用いた群がBretshneider液を用いた群より良好な心機能回復が得られたが,虚血後の冠血管抵抗の回復をみるとBretshneider液の方が低く保たれており,両心筋保護液の心筋と冠血管に対する効果,また虚血再灌流障害の機序が相違することが推察された.
|