研究概要 |
微小な病変での遺伝子変異の有無は,これまでmicrodissectionとPCRによって検討されてきたが,細胞単位での変異の有無を知ることは不可能であった.細胞単位での遺伝子変異をin situで観察することが可能となれば,癌の発生における遺伝子変化と組織形態学的変化に関して極めて重要な知見が得られるであろう.最近開発されたin situ PCRは,PCRとin situ hybrisizationを組み合わせた手法で,単一または少ないコピー数の遺伝子のin situでの検出に期待がもたれている.今回我々は,早期肺癌へのin situ PCRの応用に先立ち,細胞株を用いて単個の細胞内でのK-rasコドン12の変異を検出することを試みた. 変異特異的プライマーは,ダブルミスマッチプライマーの中から通常のPCRで選択した.細胞株Calu-1 (K-rasコドン12変異株)とNCI-H460 (K-rasコドン12野性株)を材料として,プローブを用いるindirect in situ PCRを細胞浮遊液にて行った.細胞の固定,前処理の後,Thermal Cyclerを用いて40サイクルのPCRをおこない,サンプルの一部を採取し,サイトスピンにて細胞をスライドガラス上に散布した上で,後固定,in situ hybridizationを施行した.プローブはジゴキシゲニンでラベルしたものを用い,発色はNBT/X-phosphateを用いた.種々の固定,前処理,後固定を試みると共に数種のコントロールをおいた.また,同じ材料を用いてサザンブロットを行い,望ましい増幅が行われていることを確認した.さらに,プローブを用いないdirect situ PCRも行った.その結果,95%エタノール固定,プロテイナーゼK処理,10%緩衝ホルマリンによる後固定により,Valu-q, H460はそれぞれ望ましい染色を得,各コントロールも適切な染色を得た.一方,diret in situ PCRは,非特異的染色が強くシグナルは検出不能であった.平成8年度は,この結果を応用して,より一般的な検体におけるin situ PCRの条件を検討する予定である.
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