研究概要 |
1.肺癌の生物学的特性の解析:細胞周期関連遺伝子の解析 非小細胞肺癌切除症例を対象とし、p53(318例)、p16(166例)、Rb、p27(155例)の遺伝子発現異常を解析した。その結果、各々の異常頻度は、p53:48%、Rb:45%、p16:25%、p27:40%であった。腺癌に異常例が有意に高いのは、ras、Rbで、扁平上皮癌に高いのはp53であった。単変量解析にて予後不良因子は、腺癌ではp53,p27に対し、扁平上皮癌ではp27のみであった。遺伝子異常を少なくとも1個以上有する症例は88%あり、遺伝子変異蓄積の結果、より予後不良となり悪性度の増強に関与することが示唆された。 2.遺伝子早期診断:血液中の微量癌細胞の検出 原発性肺癌切除症例76例から術前に末梢血、骨髄液を、また、術中に肺静脈血を採取し、各々より有核球を比重分離にて分離した。抗サイトケラチン抗体(CK2:CAM-5.2)を1次抗体として免疫組織化学染色を行い、CK陽性細胞数を計測した。骨髄中には76例中40例(52.6%)にCK陽性細胞を認めたが、末梢血中には4例(5.3%)、肺静脈血中には3例(3.9%)にCK陽性細胞を認めたのみで、全例が骨髄陽性例であった。病期別には、I、II期で51.0%、IIIA、IIIB期では64.5%の陽性率であった。絶対的非治癒切除を除いた72例で再発の有無を検討したところ、観察期間5〜21ケ月において、血行性再発は骨髄の陽性例36例中7例(19.4%)、陰性例では36例中2例(5.6%)に認めた。このことは、骨髄中の癌細胞の検出は早期に血行性再発を診断する指標として重要であることが明らかとなった。 以上の結果より、肺癌個々の症例の病態の把握に有用な遺伝子マーカーとして、K-ras,p53,p27などの遺伝子が重要である。将来的には、これらの特性を考慮して個々の症例に適した治療法を選択することが期待される。一方、再発の早期診断として、血液・骨髄中の癌細胞の存在は、微小転移の有用なマーカーであり、術後補助化学療法の選択基準となることが示唆された。
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