研究概要 |
本年度は,補助人工心臓の駆動源として骨格筋の使用の可能性とその問題点について,成山羊を用いた動物実験において基礎的な検討を行った.今回は特に,in situ広背筋に耐疲労性を獲得させたのちにその力学的特性を検討し,エネルギー源として骨格筋を用いたリニア型骨格筋駆動血液ポンプを用いて検討した.成山羊3頭(57〜72kg)を用い,左側広背筋に骨格筋刺激用電極を装着し,骨格筋刺激装置により12週間のプレコンディショニングを施行した.その後,急性実験において左広背筋停止側を変位計測器および張力計に接続し,耐疲労試験を行った.さらに,定期的に広背筋への負荷量を変え,収縮期と弛緩期の張力-長さ関係から耐疲労性in situ広背筋の最大外的仕事率(maxP)を算出した.その結果,刺激120分後におけるmaxPは最大3.16Watts/筋肉kgであり,耐疲労性も良好であった.また,発生張力は12.14kgf/筋肉kg,stroke lengthは32mmであった.リニア型ポンプとしてヒト両側広背筋(重量0.5kgと仮定)を駆動源とし,ケーブルとベローズを介して拍動型ポンプを駆動し左心補助を行うものとすると,計算上は204mmHgの圧を発生し得,補助人工心臓の駆動源として期待し得ると考えられる.しかし,ポンプ後負荷を100mmHgと想定すると,広背筋の癒着やポンプシステムなどによる発生エネルギー損失を50%以下に抑える必要があり,骨格筋を駆動源とする補助循環システムの実現には工夫が必要である.
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