1.本年度は既に採取してある硬膜動静脈奇形の詳細な組織病理学的検討を行った。その結果、本疾患の静脈洞内膜は肥厚し、弾性板には断裂や肥厚が見られた。また硬膜静脈は著しく肥厚して相互に連絡し、静脈洞内腔と交通していた。この変化は病歴の長い(数年の罹病期間)症例において、より顕著であった。また、動静脈瘻は硬膜動脈と硬膜静脈間に形成され、瘻の内腔は200ミクロン前後であった。この動静脈瘻は罹病期間の短い症例では静脈洞近傍の硬膜に存在するのに対し、罹病期間の長い症例では静脈洞内膜内にも観察された。さらに病理組織の連続切片をコンピュータで画像処理し、硬膜動脈、硬膜静脈、静脈洞を異なる色で立体構築することにより動静脈瘻の解剖学的構造が一層明確に表現された。これにより硬膜動脈と静脈洞間には直接の瘻形成はなく、本疾患の本態が静脈洞近傍における硬膜動脈と硬膜静脈間の瘻であることが示唆された。少数例での検討のため、この所見がすべての硬膜動静脈奇形に認められるか否かは不明であるが、この結果は本疾患の治療上、重要な意味を与えるものと思われた。即ち、経静脈的塞栓術による静脈洞閉塞は厳密には流出路の閉塞であって瘻自体の閉塞にはなり得ず、常に再発する可能性を含むと思われる点である。実際我々は、静脈洞塞栓術後に罹患静脈洞近傍の硬膜に新たな動静脈瘻を形成した症例を経験し、学会誌に掲載した。 2.硬膜動静脈奇形においてしばしば観察される静脈洞狭窄が、静脈洞血栓ではなく、罹患静脈洞の著しい線維性肥厚に起因するものであることが病理学的に示唆された(平成7年度)。本年度は臨床例において、この静脈洞狭窄に対するステントによる拡張術とその組織学的検討を試みたが、狭窄病変の著しい硬度と手技上の問題点などにより成果は得られなかった。
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