従来よりわれわれは、c-erbB遺伝子のプロモーター領域に作用するアンチジーン合成DNAを作成し分子間三重鎖DNAの形成を試み、転写抑制によるc-erbB遺伝子発現抑制効果を検討してきた。c-erbB遺伝子のプロモーター領域のSP-1結合部位とCAP部位を含む26bpの領域を標的とした場合に低濃度の合成DNAで遺伝子の発現抑制が示され、これらの効果を報告してきた。この方法においては代謝、毒性に関して顕著な問題はないとされているが、腫瘍性疾患に対してはどのようにして効率良く発現させるかについてさらに工夫が必要であった。 ウイルスベクターにより発現されるアンチジーンRNAの転写阻害効果については従来報告がなく、その効果を検討するため、組み換えレトロウイルスベクターを構築しin vitroでの転写阻害について検討した。CMVプロモーターによりc-erbBアンチジーンを発現するウイルスベクターゲノムpLNCAを構築し、パッケージング細胞psi-CREを用いてアンチジーンレトロウイルスベクターLNCAを得た。一方、EGFRプロモーターにてルシフェラーゼ遺伝子を発現するベクターゲノムpLNELをマウス繊維芽細胞NIH3T3に導入し、この遺伝子組換え体細胞にウイルスベクターLNCAの反復感染を行い経時的にルシフェラーゼ酵素活性の測定を行った。LNCA感染後48時間で量依存性に酵素活性が減少し、MOI=10の条件下にて約50%のルシフェラーゼ発現阻害効果が認められた。レトロウイルスベクターにより発現されるアンチジーンRNAにより、オリゴヌクレオチドと同様に転写阻害効果が得られることが示唆された。転写阻害に必要な力価やウイルスの投与時期などの条件についてさらに検討中である。
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