1.腫瘍の発生・増殖には宿主の免疫応答性が密接に関与する。脳細胞は他臓器の細胞と比べ主要組織適合複合体(MHC)抗原の膜発現性が乏しい特徴を示すため、脳における免疫監視機構の特殊性が示唆されているが、詳細は不明である。 我々は、世界に先駆けてこの脳細胞におけるMHC抗原発現性の特性と神経系腫瘍の癌化・分化に際し制御される癌遺伝子との関連性に着眼し、それらの相互間における遺伝子発現制御機構に関して分子生物学解析を行い、そして脳腫瘍モデルにおいてMHC抗原の膜発現性が宿主の造腫瘍性に重要な役割を果たしていることを明らかにしえた。また、神経系腫瘍を含む種々の培養腫瘍細胞株を用い、各種腫瘍細胞におけるMHC遺伝子の転写、mRNAからの翻訳、細胞膜上への分子輸送などの発現調節機構を比較検討することにより、神経系腫瘍の特性の一面を明らかにした。 2.脳腫瘍に対する局所免疫監視機構の特殊性を、特に自然抵抗性免疫機序と密接に関与する細胞性免疫担当細胞であるナチュラル・キラー(NK)細胞が介する脳内での免疫ネットワークを実験的脳腫瘍モデルを用いて解析した。その結果、世界に先駆けて脳ではNK細胞を介する免疫応答は発現されないことを示した。しかしながら、何故脳ではNK細胞を介する免疫監視機構が欠如しているかは不明であり、この点を解明することが今後の研究課題である。
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