ラット皮質静脈閉塞モデルを用いて、多点レーザーフローメトリー(scanning法)と蛍光脳血管撮影を応用し、静脈閉塞部を中心に脳表48カ所の脳血流(CBF)と脳血液量(CBV)を測定した。また、同時に静脈血流と血栓の広がりを観察し、scanning法により集積されたdataから三次元表示された脳皮質のCBFマップの作成を行い、静脈血流と対比した微小脳循環動態を調べ、48時間後の脳障害との関係を検討した(実験1)。その結果、閉塞された脳皮質静脈は脳血管撮影により、脳静脈の血流の方向は変化するが血流の保たれるA群(n=12)、脳静脈の血流が停止し脳静脈血栓の広がるB群(n=5)、sham群=(n=5)に分類された。A群では、CBF・CBVの変化及び脳損傷を認めなかったが、B群では、閉塞1時間後より有意なCBFの減少・CBVの一過性増加・重篤な脳損傷を認めた。また、脳皮質CBFマップにより、B群では皮質静脈閉塞部を中心とした低血流域とその周辺の高血流域を認め、まもなく全体が低血流となる過程をとらえた。次いで、静脈1本のみを閉塞させた群(S群)と隣接する2本の静脈を閉塞させた群(T群)を作成しこの2群を比較検討した(実験2)。その結果、S群では17匹中5匹(30%)で静脈性梗塞を生じ、梗塞範囲は対側正常半球の3.0±1.5%、T群では7匹中6匹(86%)に静脈性梗塞を生じ、梗塞範囲は9.8±4.5%(P<0.05)であった。また、T群のCBF低下は閉塞後30分後から起こっており、S群の60分後に較べて早くかつ急激に低下していた。 以上より、脳静脈潅流障害後に重篤な脳障害を残す症例では、脳静脈閉塞早期から静脈血栓が広がり、脳血流障害が起こって静脈性梗塞となる。治療として、静脈血栓防止とその後に起こる脳虚血に対する治療が有効であると結論された。本実験から得られた知見は、臨床に直結したもので、脳静脈潅流障害の予防・治療を考える際に有意義な指針となると考えられる。
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