本年度はラリンゲルマスクおよび内視鏡を使用して、ヒトにおいて気道の部位別刺激を行う方法を確立した。具体的には、術前検査で心肺機能や神経筋機能に異常のない手術予定患者を対象として吸入麻酔による麻酔導入後にラリンゲルマスクを挿入し、さらにラリンゲルマスク内より内視鏡を気道内に挿入し直視下に気道各部位(喉頭、気管、気管支)粘膜の刺激する方法を確立した。気道粘膜は内視鏡を気道粘膜に接触させる機械的刺激および内視鏡吸引用側孔より目標とする部位に小量の蒸留水を注入することにより気道粘膜を刺激する蒸留水刺激法の二つの方法を行った。これらの刺激によって生じる気道反射は気道内圧や気流の変化を記録し、これらを分析することにより定性的および定量的に評価することが可能であった。二つの方法による再現性を繰り返し刺激によって検討したところ、蒸留水刺激法は再現性の点で機械的刺激法より明らかに優れており、標準的な刺激法になりうる可能性が示唆された。蒸留水刺激法を用いた研究の結果、喉頭部、気管分岐部、気管支部の刺激によって部位別の気道反射の違いが明かになった。すなわち喉頭部および気管支部は刺激に対する感受性が特に高く、咳 反射、呼気反射、痙攣様呼吸促伯反応、無呼吸反射などを誘発するが、気管支部は刺激に対する感受性が低く、気道反射は容易に生じない。また、吸入麻酔薬(セボフルレン)による麻酔深度の増強は反射の反応時間を短縮するが、反射の質や気道部位別の違いには大きな影響は与えない。これらの結果は動物実験で報告されている結果と多少異なり、動物実験の結果をそのままヒトに当てはめることには問題があることを示唆している。
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