本年度は成熟ラット脊髄スライス標本を用いて膠様質細胞からホールセルパッチクランプ記録を行い、下行性抑制路の神経伝達物質であるノルアドレナリンとセロトニンの膠様質ニューロンのシナプス後膜に対する作用とシナプス前終末からの伝達物質放出に対する作用を検索した。シナプス前終末からの伝達物質放出の指標として、テトロドトキシン存在下で記録されるminiature-postsynaptic currentの頻度を用いた。 ノルアドレナリンの潅流投与により約70%のSGニューロンで外向き電流が生じた。この外向き電流の逆転電位が-90mV付近であったこと、ヨヒンビンでブロックされたことから、α2レセプターを介してKチャネルを開くことにより生じることが明らかとなった。また、miniature-epscの頻度はノルアドレナリンによって有意な変化はなかったが、m-ipscの頻度は著明に増加した。この反応はα1アンタゴニストのWB-4101でブロックされた。このことから、ノルアドレナリンはα1レセプターを介して抑制性伝達物質の放出のみを選択的に促進することが明らかとなった。 一方、セロトニンの潅流投与により約60%のSGニューロンで外向き電流が生じた。この外向き電流は5-HT1Aレセプターを介してKチャネルを開くことにより生じることが明らかとなった。ノルアドレナリンとは逆にminiature-ipscの頻度はセロトニンによって有意は変化はなかったが、m-epscの頻度は著明に増加した。この反応に関与するレセプターサブタイプは未だ明らかでない。 以上のことより、ノルアドレナリン及びセロトニンはシナプス後膜とシナプス前終末の両方に作用することに痛覚伝達を抑制する可能性が示唆された。
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