研究概要 |
本研究では成熟ラット脊髄スライス標本を用いて膠様質細胞からホールセルパッチクランプ記録を行い、下行性疼痛抑制系の伝達物質であるノルアドレナリン(NA)、セロトニン(5-HT)、アセチルコリン(ACh)の脊髄での作用機序を検索した。 NA,5-HT,AChの細胞体-樹状突起に対する作用 NA,5-HT,AChはいずれも大部分の膠様質細胞でKイオンコンダクタンスの上昇させることにより外向き電流を誘起した。これらの作用はそれぞれyohimbine,NAN-190,atropineでブロックされたことから、α2receptor,5-HT1A recptor,muscarinic receptorを介する反応であることが示唆された。また、NA,5-HT,AChはいずれも自発性IPSCの発生頻度と平均振幅を増加させた。この作用はTTXで一部抑制されたことから、NA,5-HT,AChは抑制性介在ニューロンを脱分極させることがわかった。NA,AChの作用はそれぞれWB4101,atropineで抑制されたことから、それぞれα 1 receptor,muscarinic receptorを介することがわかった。5-HTの作用に関与するレセプターサブタイプは不明である。 シナプス前終末に対する作用 NA,5-HT,AChはいずれもm-IPSCの発生頻度を増加させた。NAの作用はWB4101,prazocineで抑制され、α1 receptorが関与していると考えられる。5-HTの作用はやはり5-HT1〜4のいずれの拮抗薬によっても抑制されず、関与しているレセプターサブタイプは不明である。AChの作用はatropineで抑制され、muscarinic receptorの関与が考えられる。 以上より、NA,5-HT,AChはいずれも大部分の膠様質細胞でKイオンチャネルを開くことにより外向き電流を誘起し、細胞を過分極させ、その興奮性を減少させることにより痛覚伝達を抑制する。NA,5-HT,AChは抑制性介在ニューロンを特異的に脱分極させ興奮させることにより、また抑制性介在ニューロンのシナプス前終末に特異的に作用することにより、膠様質において抑制性伝達物質の放出を増加させ痛覚伝達を抑制する。
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