細胞内カルシウムの変化と血管の張力変化の同時測定を専用の細胞内カルシウム測定装置(CAF-100)を使用して行った。カルシウム指示薬fura-2のロ-デイング時間は3時間で十分であることが判明した。ラットの摘出主肺動脈では、これまでの大動脈での結果と異なり、刺激物質で収縮後、洗浄すると細胞内カルシウム濃度が静止レベル以下に低下し続けるが、インドメタシンで処理しておくとこの低下は、ほぼ消失し安定した静止レベルが維持された。血管の張力は、細胞内カルシウムが関与するとされており、従来、細胞質内カルシウム濃度が重要であるとされている。最近、脂肪質内のカルシウム量よりも、細胞内のカルシウム分布が重要で、特定の機能を調節するCa microdomainの存在が指摘されている。すなわち、カルシウムの総量に変化がなくても細胞内のカルシウムの局在が変化することにより、細胞の反応が生ずる可能性がある。正常および低酸素暴露による肺高血圧ラットの摘出肺動脈では、KCLにより細胞内カルシウムの上昇が認められ、ノエルピネフリン、プロスタグランデインF2αによる収縮も細胞内カルシウム上昇を伴ってしたがその程度は弱いように思われた。今回の実験結果では、NOドナーであるSNPによる弛緩は、カルシウム拮抗薬による弛緩より細胞内カルシウム量の変化が少ないが、同程度の弛緩を引き起こす可能性が示唆された。このことは、NOによる弛緩反応が、細胞内のカルシウム分布に影響を与える可能性を示唆している。一方、薬剤による収縮タンパクのカルシウム感受性の変化の可能性もあり、今後の検討が望まれる。
|