研究概要 |
1.研究の方法:ブタ24頭(25-38kg)を対象として実験を行った。麻酔を導入の後、開胸と心膜切開を行い、トランジットタイム血流計プローブを左冠動脈前下行枝(LAD)に装着し、その血流量を測定した。ついで超音波クリスタル法によりLAD領域と回旋枝領域の左室壁心内膜下の心筋長を連続測定し、局所収縮能を計算した。また左室内圧、心拍出量を測定した。LADを穿刺して21Gカニューレを留置し、局所麻酔薬の注入に用いた。動物を3群に分けA. 0.25%ブピバカイン、B. 1.0%リドカイン、C. 0.25%ブピバカインと1.0%リドカイン混合液をそれぞれ0, 1, 2, 4, 8, 16mL/hrの速度(各baseline, Step1〜5)でLAD内に持続注入した。 2.結果および考察:心拍出量、動脈圧、脈拍数、LAD血流量の血行動態パラメータには3群間で差はなかった。心室細動の発生頻度には3群間で統計上有意差(カイ自乗検定)が認められた。A群ではStep 3で1頭、Step 4で5頭、Step 5において2頭で心室細動が起こり死亡した。B群では心室細動が誘発されなかった。一方、C群ではStep 4で1頭、Step 5で7頭において心室細動が誘発された。局所収縮能についてみると3群でいずれも容量依存的に抑制され、A群とB群ではC群に比較しその抑制作用は著明であったが、A、群間には差がなかった。ブピバカインによる心毒性は摘出標本での研究よりNaチャンネルとのmodulated receptor theoryが提唱されている。すなわちリドカインはNaチャンネルと結合、解離を繰り返す(fast in, fast out)のに対し、ブピバカインは蛋白との親和性が強いため、Naチャンネルと結合したままの状態(fast in, slow out)となり、心筋のNaチャンネルのブロックが進行し、re-enryメカニズムにより心室細動が誘発される。 3.結論:本研究においてリドカインとブピバカインの混合液ではブピバカイン単独群に比べ心筋抑制作用は不変で、心室細動の発現が遅れた事実は両薬剤がNaチャンネルに対し競合したことによると推測され、これはブピバカイン心毒性のメカニズムについてmodulated receptor theoryが正しいことを支持する。来年度は心内膜下微小血管の挙動を観察する予定である。
|