研究概要 |
前立腺肥大症の本質的病態は間質増殖にあるという作業仮説のもとに、間質増殖にどのようなホルモン、成長因子が関与しているか解明するために研究を進めている。前立腺肥大症間質の主要構成成分はコラーゲンと平滑筋細胞であり、その間質増殖に女性ホルモンが関わっていると推測されるがいまだ仮説の域を出ない。我々は女性ホルモン誘導雄性副性器間質増殖モデル(ラット精嚢)をつくり間質増殖への女性ホルモンの関わりを詳細に検討している。このIn Vivoでの間接的検討の一方、ヒト前立腺肥大症間質細胞の培養実験で直接的手法を用いてホルモン、成長因子の影響について検討し間質増殖機能を更に深く理解しようと研究を進めた。 平成8年度に得られた主な成果は以下のごとくである。 1) 肥大症モデルでの検討:7年度までに女性ホルモン(E2)投与による間質増殖に一致してER(estrogen receptor)蛋白の増加、特に核ER蛋白の著しい増加が起こることを確認した。8年度にはこのER蛋白の発現は間質細胞核のみならず、基底細胞核にも起こることを明らかにした。更にこれらER蛋白発現は男性ホルモン(DHT)存在下では全く起こらず、E2-ERを介しての間質増殖にDHT-AR(androgen receptor)が抑制的に作動していることが明らかになった(H.Yuasa et al.,1997)。 2) 培養間質細胞での検討:7年度までにヒト前立腺肥大症間質培養細胞で培養液中DHT(dihydrotestosterone)濃度が生理的濃度以下になると、培養細胞からのTGF-β産生が直線的、比例的に増加することを明らかにした。8年度には培養細胞から産生されたTGF-βが培養細胞自身から産生されるコラーゲンを正の調節機構でオートクリン調節していることを再度確認した。この間質培養細胞はARを保有しており、DHT添加によりKGFを発現した。即ちこの間質細胞にDHT-AR-KGF系が存在することを明らかにした(Y.Fukabori et al.,1996)。
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