研究成果を以下に略述した。 1、カフェイン添加により先体反応の誘起が促進されるとともには細胞内cAMPの蓄積が観察された。によると考えられていたが、カフェインはフォスフォジエステラーゼ阻害(PDE)とともに小胞体、ミトコンドリアからの細胞内Caの放出を促すなどの多彩な薬理作用を有する。特異的なPDEであるROにより同様な検討を行うと細胞内cAMPの蓄積、精子運動の促進は観察されるが、先体反応誘起の促進は再現されなかった。さらに8-Bromo-cAMP添加により精子運動の促進が観察されたが、先体反応には影響しなかった。カフェインの先体反応への影響はCa非存在下では消失し、カフェインの先体反応に対する作用機序はPDE阻害ではなく、細胞外Caの精子内への動員である可能性が示唆された。 2、cAMPは中片機能である運動の制御に関与するとされたが、細胞内アデニルプリン体の一斉分析を行った結果、総アデニルプリン、ATP、ADPのみが運動率と相関しcAMPとは相関しなかった。 3、これまで先体反応の誘起にはCa存在下に数時間培養することが不可欠とされたが、Ca非存在下に培養した先体反応未誘起精子にCaを添加すると、直ちに先体反応が開始され、約90-120分間でプラトーに達することを見いだした。 4、アセチルコリンは先体反応を促進したが、精子運動、細胞内アデニルプリン量に影響しなかった。 一般の細胞は細胞膜に囲まれた細胞質中に全ての細胞内小器官包含するone compartment型であるが、精子は細胞内への物質の出入りが解剖学的に隔たって位置する先体と中片部で独立して起こるtwo compartment型あるという作業仮説を研究計画に提示した。上記の結果は先体と中片部の機能が独立して制御されている可能性を示唆するものであり、さらにCaチャンネルブロッカー等を用いて詳細な検討を進めたい。
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