ヒト精子中に含まれる各adenyl purine量を蛍光ラベル-HPLC法で測定した結果、cAMPも含めた細胞内adenyl purine量は先体反応誘起に伴い変化しなかった。キサンチン誘導体、Caffeine(Caf)は最初に見出された先体反応誘起促進剤であり、その作用機序はPhosphodiesterase阻害作用による精子内cAMP蓄積によるProtein kinase Aの活性化と考えられてきた。1.0mM Caf存在下に精子を培養すると、細胞内cAMP濃度、精子運動、先体反応誘起率は対照に比して有意に上昇した。すでに先体反応勇気にはCa^<2+>の細胞内流入が必須であるとされている。Ca^<2+>除去ハンクス液中では先体反応誘起は有意に抑制され、Cafの先体反応誘起促進作用も消失した。一方、dibutylic-cAMP(dbcAM)、8-bromo-cAMP(8-bcAMP)を精子懸濁液に添加、培養してcAMPの直接作用を検討した結果、精子運動は上昇したが、先体反応誘起には影響しなかった。またキサンチン骨格を有しないpapavelinも細胞内cAMP濃度、精子運動を上昇させたが、先体反応には影響しなかった。次にAcethylcholine(ACh)の精子に対する作用を検討したところ精子運動、精子内cAMP量に変化はなく、先体反応のみが用量依存的に促進され、Atoropineで前処理することにより消失した。 本研究の結果はcAMPは精子運動賦活には関与するが、先体反応誘起に直接関与しない可能性を示している。検討した薬物は運動のみ、先体反応のみをまたは両者を促進するものに3分類された。これは精子が他の体細胞と異なり、先体、中片・尾部機能が独立して制御される2-compartment modelであることを示唆しており、先体反応機構を解明する上で両者を区別して考えることが必要である。
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