研究概要 |
1)昨年度に引き続いて、tissue transglutaminase(TGase)についての遺伝子解析をすすめ、さらにTGaseにたいする特異的抗体を用いた免疫組織化学での検討も行った。子宮内膜組織を用いた検討では、増殖期内膜ではほとんど検出されないTGase活性が、分泌期には明らかに認められるようになり、妊娠初期脱落膜では非常に強い反応が認められるようになっていた。細胞培養で、TGaseの阻害剤であるmonodansilcadaverinを添加すると、プロゲステロンによる細胞の分化は添加濃度依存性に抑制され、またTGase遺伝子のAntisenseprobe投与でも同じく分化の抑制が見られた。これらより、tissue TGaseには子宮内膜間質細胞の分化初期過程に必須の因子を活性化する役割が想定される。遺伝子解析によると、tissue TGase遺伝子の上流域には副腎皮質ステロイドホルモンの結合部位やretinoi、IL-6などの結合部位が確認された。この酵素活性の上昇は細胞の分化誘導とともに、分化した細胞の恒常性を保つ働きが想定される。 2)昨年までにクローニングされていた12種の遺伝子すべての解析を行ったところ、tissue TGaseと昨年報告したTIMP(tissue inhibitor of metalloproteinase)以外にも、未報告の遺伝子が少なくとも1種分離された。mRNA誘導はプロゲステロン負荷後わずか1時間で急増し、1,000bpまでの解析ではこの遺伝子は未知のタンパクをコードするものであることが確認された。アミノ酸配列から分子量は18,000であると推定され、各種臓器でのNorthem blot解析では、卵巣、精巣、膵臓などに強い発現が認められた。子宮内膜での発現をさらに検討したところ、妊孕能が確認された婦人から得られた分泌期内膜(内膜日付疹の標本)ではいずれも強い発現があり、一方不妊婦人では症例によっては発現低下の著しいことが判明した。そこで、体外受精で形態良好胚を3回以上移植したにもかかわらず妊娠できなかった3症例(着床不全と推定される)について解析すると、組織学的には日付疹上のずれは認められないにもかかわらず、いずれもこの遺伝子発現は非常に弱いという結果が得られた。以上より、この遺伝子が子宮内膜からプロゲステロン依存性に誘導されヒト着床の鍵を握るものであることが強く示唆された。 このように着床障害の病態解析のために行った今回のサブトラクション研究によってTGaseを含む新たな内膜機能マーカーが発見されたため、これらによりより有効な内膜診断を行うことが可能となった。不妊診療に大きく貢献する有意義な研究であったと考えている。
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