研究概要 |
胎児心拍数の定量的な記述法として考案した確率密度分布図を用いて,現在のひとつの心拍数が後続する何拍先の心拍数にまで関連しているかを明らかにすることを目的とした.妊娠23-41週の正常胎児181例を対象とし,2週毎に9つの妊娠期間に分割した.各症例において,90-120分間の瞬時心拍数を収集した後,1)1bpmを単位として,心拍数絶対値とそれの次の1拍への変化分を行と列に,行列の要素に確率密度を有する基準確率密度分布図を作製した.2)ついで,任意の心拍数絶対値(FHR)を行に,その後に続く2拍先,3拍先,-,,1000拍先の心拍数を順次サンプリングし,これら標本心拍数のFHRに対する変化分を列に,行列の要素に確率密度を配する標本確率密度分布図群を作製した.3)標本確率密度分布図群と基準確率密度分布図との差分から,両者の差異を「不一致率」として定量化した.4)一群の不一致率を解析のための変量とした.各妊娠期間において症例毎に,心拍数サンプリング間隔と対応する不一致率との関連を「折れ線回帰分析」を用いて解析した.その結果,1)各症例において,不一致率は心拍数サンプリング間隔の増大にともなって直線的な増加を示したが,数理的に有意な変曲点を境に,それ以上の範囲ではほぼ一定であった.2)変曲点における心拍数サンプリング間隔は,妊娠23-25週(21.0±5.1拍)から妊娠28-29週(11.4±5.0拍)まで漸減し,それ以降の妊娠期間ではほぼ一定の値を示した.以上の成績は,現在の心拍数がその後の心拍数におよぼす重みが,妊娠の進行とともに軽くなっていく現象であると解される.云い換えれば,ヒト胎児の発育と相まって,遅くとも妊娠29週に至れば,心拍数一拍一拍を微細に作動させる制御系が成熟してくることを意味する.
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