研究概要 |
聴覚系における神経の可塑的変化の基礎となる研究として、感覚細胞の再生過程、神経回路網の発達過程について検討をおこなった.また、人工内耳埋め込み例の研究からヒトにおける可塑的変化を検討した.音響障害後の感覚細胞の再生過程を鳥類内耳において調べ、有毛細胞消失後早期に支持細胞の分化がおこり再生されていくこと、そこにbasic FGFが関与していることを明かとした(Umemoto et al,Cell&Tissue Res 1995).次いで、聴覚における神経回路網の発達、シナプスの形成に重要な役割をになっている誘導因子の発現についての研究をおこなった.鳥類内耳の発生期および再生過程におけるNCAM-Hおよびgicerinの発現について検討した結果、内耳発生早期より耳胞及び神経節にこの二種の蛋白が強く発現するが、聴器の成熟とともに聴覚上皮、神経節の順に発現が低下していき、生後はみられなくなることがわかった(Kajikawa et al,Hearing Res 1997).音響外傷後におこる有毛細胞の再生過程においても、非常に早期にgicerinが発現し、末梢聴覚系の可塑的変化にも関与していることが明かとなった(Kajikawa et al,J Neurocytol 1997).また、人工内耳例に対する長期の聴覚言語訓練結果から、先天聾児であっても若年時にハビリテーションを始めることができれば、2-3年にわたる訓練により予想をはるかに上回る言語聴取能が得られることが明かとなった(久保ら、小児耳鼻咽喉科 1997).本研究により、聴覚系における有毛細胞の再生および神経発達に、basic FGF、NCAM-H、gicerinといった物質の関与を明かとすることができた.
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