味覚学習の実験法として、ラットに条件づけ味覚嫌悪(CTA)を獲得させた。すなわち、0.1%サッカリンを条件刺激(CS)として摂取させたあと、0.15M LiClを無条件刺激として腹腔内に投与し、サッカリンの味に対して嫌悪条件づけした。次のような結果が得られた。 1.行動学的実験:不確帯を破壊するとCTAの獲得と保持が影響を受けた。トレーサーを用いた神経解剖学的実験も行い、不確帯は結合腕傍核外部外側亜核から入力を受け、扁桃体中心核や視床正中部に投射することも明らかにした。 2.電気生理学的実験:扁桃体と大脳皮質味覚野には、CTA獲得前後においてCSであるサッカリンに対する応答が長期的・短期的に変化するニューロンが存在した。扁桃体の基底外側核には長期増強型ニューロンが、中心核には抑制型ニューロンが主に存在していた。 3.免疫組織化学的実験:除脳ラットはCTAを獲得できなかった。このとき、結合腕傍核におけるc-fos発現を免疫組織化学的に検索すると、サッカリンに対してCTAの操作を行っても同核におけるc-fos発現はコントロールラットと何ら変化が認められなかった。このことは、上位中枢からの遠心性投射がCTA獲得には重要であることを示唆するものである。 4.マイクロダイアリシス法による実験:ナトリム利尿剤投与により急性的に食塩欠乏を誘発したラットに、通常は摂取を拒否するような高濃度の食塩水(0.5M)を与えると、活発な摂取反応を示し、皮質味覚野のアセチルコリンレベルも対照動物に比べて有意に増加した。また、食塩欠乏動物では、食塩水刺激後の摂取反応量と皮質アセチルコリンレベルの間に高い相関がみられたので、食塩欲求時には、皮質味覚野のアセチルコリンは摂取反応の発現に関係すると考えられる。
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