本研究は視床に存在する歯髄駆動ニューロン(視床TPN)が、どのような投射様式で大脳皮質第一次体性感覚野(SI)に歯髄感覚情報を送っているかを明らかにすることにより、三叉神経系侵害感覚情報処理に対する視床-SI系が果たす役割を明らかにすることを目的とした。当初、以下に示す3つのテーマを掲げ研究をスタートした。第1は視床TPN軸索の大脳皮質における分布様式の電気生理学的検索、第2は視床TPN軸索の大脳皮質内分布様式の解剖学的検索、第3に電気生理学的に同定された視床TPN軸索の皮質内分布様式の検索である。 本研究の結果から、歯髄感覚入力を受ける視床TPNはSIの異なる場所にクラスターを形成して投射していることが明らかになった。これまでの研究により、SIは機能円柱というカラムにより構成されており、各々の感覚情報は異なるカラムの中に存在するニューロンに投射し、各カラムは類似の感覚情報処理を行っているとされていた。しかし、本研究結果から、侵害情報はこのカラムを超え幾つかの異なる皮質領域に分布する侵害受容ニューロンに投射する可能性が示唆された。この結果から、侵害感覚は低閾値感覚と異なり、視床に存在する少数の侵害受容ニューロンが一度に多数の大脳皮質第一次体性感覚野ニューロンを同時に活性化し、これにより侵害刺激に対し生体がより迅速に対処できるように機能しているものと考えられる。 単一の視床TPN軸索内にトレーサーを注入し、単一ニューロンレベルでの解析を試みたが成功していない。しかし、今回得た電気生理学的方法による結果およびPHA-Lを用いたトレース実験の結果により、視床に分布する歯髄駆動ニューロンが大脳皮質第一次体性感覚野にいかなるメカニズムで歯髄感覚情報を送っているかについては、ほぼ解明されたと考える。
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