既に、我々は7週令モルモットを用いて、その前歯部に咬合挙上板を7日間装着すると、咬筋のTension cost(ATPase活性/発生張力)が著しく低下することを観察(Am. J. Orthod. Dentofac. Orthop. 1993;104:438-491)しているので、今回、この変化が収縮タンパクの変性に関係するのかどうか、正常および3日と7日間咬合挙上板を装着したモルモット咬筋よりミオシンを抽出し、1)ピロリン酸電気泳動法によりそのミオシンアイソフォームを、2)SDS-PAGE2次元電気泳動法により、そのミオシン軽鎖を分類同定した。その結果、咬筋のミオシンアイソフォームは、速筋に見られるように、FM1、FM2およびFM3の3成分より構成され、正常ではこれらの構成比はほぼ等しいが、7日間咬合挙上により著しいFM3成分の増大と、それに伴うFM1成分の減少を観察した(なお、挙上3日間では、有意の変化は観察されなかった)。ミオシン軽鎖も、他の速筋に見られるように、FLC1、FLC2およびFLC3の3成分より構成され、3日間挙上では変化は観察されなかったが、7日間挙上により顕著なFLC1成分の増大を観察した。この結果は、FM3ミオシンアイソフォームのミオシン軽鎖がより多くFLC1成分より構成されるとのこれまでの報告を考えると、咬合挙上によるミオシンアイソフォームの変化とも大変よく対応するものである。また、FM3が組織化学的方法で同定されるタイプIIA(あるいは、FRまたはFOG)線維に、FM1がタイプIIB(あるいは、FFまたはFG)線維に対応するとのこれまでの報告を考え併せると、モルモット咬筋は咬合挙上により、より難疲労性の筋線維に変化することを示唆する。この推察は、また、Tension costが7日間の咬合挙上により著しく低下するとの我々の以前の報告とも一致するように思われる。
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