研究概要 |
我々は以前にX線などのイオン化放射線の照射直後に、PCNがDNA損傷部位に結合し、PCNA-DNA複合体を形成することを明らかにした(J Cell Physiol 150:370-376,1992)。本研究では、放射線によって誘導されるPCNA-DNA複合体形成に関与する因子としてRP-A,RF-C及びAPエンドヌクレアーゼ,XPAC遺伝子産物を想定し、PCNAとの関連を調べることを目的としている。 本年は最初のステップとして、X線照射後のPCNA-DNA複合体形成の動態、及び複合体の形成と消失に関与する因子について実験を行った。 その結果、複合体DNaseI処理によって消失し、RNase処理では消失しないことから、DNA複製時の複合体と同様にメタノール抵抗制のDNAとの結合様式であることが確認された。さらに複合体形成はATP要求性であること、0℃では起こらないことが明らかにされた。複合体形成の時間経過については、37℃でX線照射すると、直後から複合体形成が見られ、数時間後に消失し、12〜15時間後に完全に消失した。DNAポリメラーゼα,δ,ε特異的阻害剤であるアフィディコリン存在下では、放射線照射によって複合体形成が誘導されるが、その消失は阻害され、20時間後でも複合体形成が存続した。このことは修復DNA合成が完了するとPCNAが結合部位から遊離し、修復合成を阻害すると複合体のまま存続することを意味している。シクロヘキシミド処理による蛋白合成阻害は複合体形成には影響を及ぼさないが、消失を阻害した。修復合成の進行には新たな蛋白合成が必要であることを示唆している。XP-A細胞でも正常細胞でも、同様の複合体の動態を示すことから、X線によるDNA損傷修復の初期過程はヌクレオチド除去修復とは異なることが示された。XPA遺伝子の突然変異によるヌクレオチド除去修復に与える影響についても現在確認中である。
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