研究概要 |
Wilsonらのグループは、DNAボリメラーゼβノックアウトマウス由来の細胞の放射線感受性が正常細胞と全く変わらないことを報告し、電離放射線による塩基損傷は本来DNAボリメラーゼβによって修復されるが、修復されなくとも細胞は死に至らないと結論した(Nature,379,183-186,1996)。これまでの我々の知見から、我々は、この現象を次のように考えた。電離放射線による塩基損傷は、DNAボリメラーゼβによってもまたPCNA依存性DNAポリメラーゼδ/εによっても修復可能であり、かりに前者が存在しなくとも後者によって十分修復され、そのために放射線感受性は正常である。DNA単鎖および二重鎖切断の修復動態が、正常細胞とβ(-)細胞で全く変わらないこと(Rydberg et al.,46th Annual Meeting of the Rdiation Research Society,1997)、また我々が提供した、PCNA機能を中和する自己抗体AKを、β(-)細胞からの抽出液と反応させ、その後にin vitroで塩基除去修復を行なうと、ほぼ完全に修復が抑制されること(Biade et al.,J.Biol.Chem.,273,898-902,1998)が最近明かとなり、我々の説を支持する報告が出はじめている。本年度、我々は、Dr.Wilsonよりβ(-)細胞と正常細胞を提供して頂き、その細胞の放射線生物学的特徴づけと、PCNAレベルをアンチセンスオリゴによって減少させたとき、その放射線感受性がどのように変化するか検討することを予定したが、細胞がなかなか入手できず、実験の着手にてまどった。やっと上記細胞が手に入れ、現在プロジェクトが進行中である。この実験により、細胞内においてDNAポリメラーゼβとPCNA依存性DNAポリメラーゼδ/εが、電離放射線によるDNA損傷修復においてどのような役割を果たしているのか明かになるものと期待され、今後も継続して行なう予定である。
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