研究概要 |
グラム陰性菌の内毒素(LPS)は歯周炎の重要な病原因子であると考えられている。一方、グラム陽性菌に対する抗菌物質として知られるリゾチームは、腸内細菌のLPSと結合しその生物活性を阻害することも示唆されているが、詳細については不明な部分も多くあった。我々は、大腸菌由来のLPS、および3種の歯周病関連細菌(Porphyromonas gingivalis,Prevotella intermedia,Actinobacillus actinomycetemcomitans ; 以下各々Pg,Pi,Aa)から調製したLPSが、マウス骨髄細胞培養系における破骨細胞の分化を促進することを示した。そしてリゾチームが、この破骨細胞形成促進作用をはじめ、白血球からの腫瘍壊死因子αの産生誘導、多クローン生B細胞活性化作用などのLPSの免疫薬理活性を阻害するという結果を得た。リゾチームは、上記4種の細菌のLPSおよび合成リピドAの活性をほぼ一様に阻害できることから、その作用部位はLPSの活性中心といわれるリピドA部分であると推察された。PgやPiのリピドAが既知のLPS阻害剤であるポリミキシンBでは阻害されないことが知られているのに対して、リゾチームはいずれのLPSの活性も阻害できた。リゾチームの化学修飾誘導体を作成し、LPSの阻害能を検討したところ、ジスルヒド結合を還元後トリメチルアンモニウムプロピル化した誘導体が、非常に強くLPSの活性を阻害することが明らかになった。また、リゾチームの内毒素中和作用は、その本来の酵素活性とは無関係であった。以上の結果より、リゾチームには膿汁の分解やグラム陽性菌に対する抗菌作用のみならず、坑内毒素作用の薬効が期待できること、そして、LPSが病原因子として重要視されている歯周炎の治療薬としての応用が期待できることが示唆された。さらに、タンパク質工学的手法により、より強力な内毒素阻害剤を新規に創製しうる可能性が示唆された。
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