ヒト乳歯の脱落後期に認められる歯髄内部からの吸収現象を観察モデルとし、歯の吸収機序、およびその修復機構について破歯細胞を中心に炎症性細胞、歯髄細胞あるいは歯根膜の細胞の相互の関連性について微細構造学的、組織化学的、また免疫組織化学的手法を用いて検討を加えた。 歯髄内部からの吸収過程を4段階に大別し、まず破歯細胞の分化過程を観察した。その結果、破歯細胞は単核の前駆細胞として歯髄内に出現し、その細胞は象牙前質に接着後多核化し吸収が進行することが明らかになった。また、吸収が停止する頃になると多核の破歯細胞は吸収面から次第に離れ、吸収窩表面にセメント芽細胞が出現し修復が開始され、吸収から修復へのCoupling factorの存在が示唆された。 ヒトの乳歯における歯髄内部からの吸収開始からその修復の一連の過程で、歯髄内には多数のモノサイト、マクロファージ、リンパ球などの炎症性細胞が常時観察され、これらの細胞はIL-1、IL-6、TNF-α、βなどを産生していることが免疫組織化学的に明らかになった。さらに、吸収停止前には、TGF-β、TNF-γなどのサイトカインを産生している細胞が破歯細胞に隣接して観察された。 以上の結果より、ヒト乳歯の歯髄内部からの吸収は、炎症性のサイトカイン類が直接、あるいは間接的に関与する可能性が示唆された。さらに、歯の吸収からその修復過程においても、これらのサイトカイン類が破歯細胞の吸収活性の抑制や、セメント芽細胞などの形成系の細胞の活性化を通して重要な役割を果たしているものと考えられた。
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